年中無休で恋心

たのしいおたくライフを送っています。

2021年上半期マイベスト映画トップ10(劇場公開・配信)

2021年は劇場公開された邦画が本当に素敵で、影響を受けたものがたくさんあります。配信限定公開の映画も、新たに配信に追加された過去作品も素晴らしかったので「劇場公開」と「配信」で分けてベスト10を考えました。しかし5位以内のものは実質1位ですよね…。 

劇場での新作24本、配信は新旧含め52本、計76本中のランキングです。

 

 

2021 年上半期劇場公開新作 マイベスト映画トップ 10

 

1位 ヤクザと家族 The Family

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爽快、絶望、希望、切なさ、受け取るこちらの振れ幅がとんでもない量やってきて「いい映画を観た!」って実感を与えてくれました。重い社会問題を扱う誠実さ、壮大な話と個別具体的な人の物語、稚拙じゃないのに分かりやすく面白い!のバランスが最高。綾野剛がスタントなしで車に激突したり、身体的に体当たりすぎるシーンの迫力よ…。正直グロ描写が苦手なので手に汗握りましたが、見ておかなきゃと思わせる説得力が凄まじかったです。作品自体からも、公開後のSNSでの熱心な広報活動からも、役者さんも本気でこの作品を大切にしてることが伝わってきてそういうところにもぐっときました。

 

2位 くれなずめ

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高校時代の帰宅部仲間が友人の結婚式の余興のために集まることから始まるお話。映画を通して個人的なことを語る行為にグッと傾いている気がして、そういうものにしかない爆発力のある作品に愛情を持ちがちな自分に気付きました。わたしがこの映画を好きでいてあげたいんだ、となぜか思ってしまう(何様!?)大事な映画です。ブログも書いた。

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アフター6 ジャンクションに送った映画の感想メールを読んでもらったのもいい思い出。とあるシーンの藤原季節さんの顔の演技に圧倒され、初めて俳優さんのファンに…というか沼に浸かりました。

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3位 あのこは貴族

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男をめぐる女同士の関係、 東京と地方を描く作品は「こういうもの」と思ってしまっていた自分に気が付いてがグラっとさせられる。質感は決して派手ではないけれど、今後シスターフッド映画潮流のゲームチェンジャーになるのかもしれないと思うと、目撃できたことに興奮します。同じ東京で違う世界に生きる二人が画を通じて理解できるほど、美術の膨大な繊細さが圧倒的な手数であることが素人でも分かりました。お嬢様の門脇麦とガッツでいく水原希子、 普段だったら逆のイメージの主演二人の配役もすでに勝ってる。 自分の映画の見方を変えてくれてくれた作品で忘れられないです。

ブログも書きました。

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4位 すばらしき世界

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主演の役所広司があるシーンでボロボロ泣き始めるんですけど、美しいものに初めて出会って衝撃を受けているんだろうことが顔の演技で伝わってきました。そして美しい人や美しいものにこの年齢になるまで出会えなかった人生を思うと、あまりの哀しさに電流が走りました。優しいって何だろうとしばらく考え込んだ。自分にない体験をこうやって映画で知られることに感謝の気持ちがわきます。すごかったです。

 

5位 燃ゆる女の肖像

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ラストシーンでわんわん泣きました。世界に傷つけられてるこ とに無自覚でいさせられてきた女性たちに観て勇気をもらってほしい。いつの時代にどんな形で傷ついていたとしても、人と人が感性で刺激しあい自分を残 そうとする希求が確かにあったことを信じさせてくれることがこんなに力強いことない。素晴らしいです。画も美しい。

ブログも書きました。

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6位 シン・エヴァンゲリオン 劇場版

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今じゃ信じられないけど、『破』 の頃は特典付き前売り券を買うのに深夜から朝まで建物の外で並んだような時代でした。まだ何者か知らないマリの絵柄のベアブリックもらったな〜。新劇の上映が始まった頃からわたしも時代も変わってしまうほど時間が経ったし、 背景事情なしで評価することが もはやできない作品だと思うけど、最後にあんなに分かりやすく終わってくれて、やっぱりすごくかっこよかったと思う。
 

7位 まともじゃないのは君も一緒

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人とのコミュニケーションが苦手。数学ひと筋で生きてきた予備校講師の成田凌を、教え子の清原果耶ちゃんが手ほどきして 「普通」を教えてあげようとしてあげる映画。主演二人の演技が 競技のようにビシビシ決まっていって、かつそれが変に毛羽立つ感じもなく、観ていて気持ちよすぎました。物語の説得性とそれ がちゃんとマッチしてるのもすごい。『街の上で』を交互に観てハイパー隠キャラ成田凌とイケメン激モテ成田凌の振り幅で気がおかしくなりたい。

 

8位 ファーザー

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前情報一切無しで見るほうが良い作品だと思うので何も言えない、新しい体験でした。配信で観るにはきついと思うのでまた上映されるといいな。

 

 

9位 映画大好きポンポさん

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天才映画プロデューサーのポンポさんのもとで映画通の青年・ジーンが初監督映画を撮る過程を描く映画です。仕事への自分の姿勢が不甲斐なくてとても落ち込んでいた時期に観たこともあり、この明るい物語にすっごい元気をもらいました。映画の配役、脚本、撮影、 編集と個別具体的な仕事の内側を描きながらもとても普遍的なメッセージを含んでいて、この 映画自体が内容と同じように愛を持って製作されたんだろうと思うと愛おしいです。

 

10位 のさりの島

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主演の藤原季節がおばあちゃんにお灸をしてあげながら会話するシーンがあるんですけど、すごいの。 背中側から写してるの。一見してえ、そう撮る?って思うんだけど、 映画史上に残ってほしい構図・ 顔・間なの。手元と表情と構図 でここまでの二人の関係の近づき方を見せることできるんだとはっとし、そしてこれからは変わってしまう予感を本能的に感じて涙が出ました。あれが撮れたときの現場、良い時間だったんだろうな。人生のうちでこういう奇跡を捉えられる瞬間に出会えるのは幸せだろうなと、きらめきを感じました。この映画もブログ書きました。door-knock.hatenadiary.jp

 

 

 

 

2021 年上半期配信(新作・旧作)マイベスト映画トップ 10

 

 

1位  佐々木、イン、マイマイン (Primeレンタル)

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主演の細川岳さんが実体験をもとに企画、内山拓也監督が徹底的に 2 年半聞き取りをして脚本化したという、人生削ったみたいな映画。去年観たんですが、 2020 年は才能ある好きな人たちがたくさん亡くなってしまったから、「佐々木」という自分にとっての過去のヒーローの人生を覗いていくこの作品と重ねてしまい、まっすぐ観ることができませんでした。でも観返したら自分が弱すぎたって思えた。今年一番好きな映画になりました。  


2位 なぜ君は総理大臣になれないのか(Netflix)

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衆議院議員(立憲民主党)小川淳也さんを追った 17 年分のドキュメンタリー。観た周りの方々が次々と食らっていたのですが映画館も映画祭でも観過ごしてしまい、もう機会ないと思ってたらまさかの Netflix に追加されたので、超観てほしくて 2 位にしちゃいました。 真面目に構えて見始めたのに、 ボロッボロに泣いてしまい自分でもびっくりした作品です。


3位 ソウルフル・ワールド (Disney+) 

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大好き。友達の子ども全員にブルーレイ買ってあげたい。将来に夢を持っても持たなくてもいいし、夢叶えたあとに繋がって いく日常も愛していこうねという新しいメッセージ。学校の先生たちは気軽に文集に夢を書かせるけど、 じゃああなた方は今夢の世界にいるんですかって思ってた、可愛くない思春期だったな。こういう作品があったら救われたと思う。ファンタジーだけど設定が緻密なのでぐっと没入できるのも好きでした。

 

4位 止められるか、俺たちを (Netflix)

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60〜70 年代のアングラ文化を牽引したと言われている若松孝二監督と、若松プロに集まった若き才能たちの伝記的映画。1人女性の助監督として加わった門脇麦さんの奮闘ぶりとめちゃくちゃな映画製作現場が凄まじい。 映画評論家を経て若松プロに参加する荒井晴彦役の藤原季節さんに大ハマりして過去作をあさっていたところ衝撃的に食らった作品なんですが、本当に凄い人だったんだと確信できて幸せでした。荒井晴彦さんが脚本を読んで自分の登場シーンを増やすよう修正してしまい、映画観賞後季節さんに「君はよくやってたと思う」とコメントしたらしいという裏話含めて最高。映画の続きか。   

5位  エイス・グレード 世界でいちばん クールな私へ(Prime)  

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ポスターから青春映画だと思って観始めたら全然違った!学校ではクラスメイトや先生とうまくやれないけど承認欲求だけは肥大していく女の子が主人公で、そうなると何をしでかし始めるかっていう矛先に身に覚えがありすぎて赤面が止まらず 何度も映像を止めたくなりました。でもそういうところがある自分も最高だよと思える映画で最高です。音楽も好き。

 6位 WOOD JOB!~ 神去なあなあ日常~ (Netflix,Prime) 

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笑えてハッピーな映画、 大きくラブです。若者がチャランポランな理由で林業研修プログラムに参加することになり、 なんか頑張ることになる話。お正月あたりに観たんですけど、 すごくちょうどよかったです。 これも周囲に強くお勧めされたものなので人の影響は受けるものですよね。チャラい染谷将太の顔と化粧っ気のない長澤まさみの色気が最高。

7位 LEGO(R)ムービー (Netflix)

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レゴが動く可愛いこども向け映画だと思ってしまってましたが、 現実の社会の投影を強く感じる大人向け映画でした。もちろん ストップ・モーションアニメ風 にレゴが崩れてくるシーンとか生活空間が全部レゴで描写されているところとかワクワクするんだけど、描かれるメッセージ とその構成がすごいです。早く観ておけばよかった。エンドロールが可愛い。

8位 彼の見つめる先に (Prime)

 

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目の見えないことをクラスメイトにからかわれている高校生のレオ。両親や幼なじみは彼に過保護に世話してしまうけど、転校してきた少年・ガブルエルは彼に普通に接してくれて映画館 に行ったり自転車に乗せたりするんです。それで恋が始まるんですけど、ガブリエルが教えてくれる音楽が Belle & Sebastian だったりするんですよ!2 人で踊るんですよ!そりゃ良いでしょうが!光が照っていて画が明るいのも素敵。大好き青春映画。 

9位 フランクおじさん (Prime) 

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セクシャリティを扱う素敵な映画は最近たくさんあると思うんですが、その中でもとても好きです。家族のお話でもあるし、同性愛者に対するキツイセリフも出てくるのが辛いけど、一番誰かと分かりあいたい と思うところを持っている人がたどり着く折り合いのつけかた、 家族のもち方がとても繊細で爽やかで愛にみちてると思いました。アマプラオリジナルだけど映画館で観てみたかった。

 

10位  隔たる世界の2人 (Netfix) 

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ネタバレを知っていても作品を受け止める障害にならないと思うほどのインパクトがありました。アカデミー短編賞受賞作。映画ではよくある物語のループする構造も Black Lives Matter をテーマにしたこの映画に採用されていることにズドンときました。30 分と短いのも意図を感じました。

 

 

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【劇場公開新作】

1 ヤクザと家族 the family

2 くれなずめ

3 あのこは貴族

4 すばらしき世界

5 燃ゆる女の肖像

6 シン・エヴァンゲリオン劇場場

7 まともじゃないのは君も一緒

8 ファーザー

9 映画大好きポンポさん

10 のさりの島

 

【配信】

1 佐々木、イン、マイマイン(Primeレンタル)

2 なぜ君は総理大臣になれないのか(Netflix)

3 ソウルフル・ワールド(Disney+)

4 止められるか、俺たちをNetflix

5 エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ(Prime)

6 WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜(Netflix,Prime)

7 LEGO(R)ムービー(Netflix

8 彼の見つめる先に(Prime)

9 フランクおじさん(Prime)

10 隔たる世界の2人(Netflix)

 

配信では『サウンド・オブ・メタル』もとても素晴らしかった。劇場公開作品では『茜色に焼かれる』に心をズタボロにされました。ふるえるほど感動したシーンがあったんですが、女性の生きにくさってこうでしょうと描かれる部分が今でも不意に頭をよぎって、「理不尽!!!!!」とめちゃくちゃ怒ってしまう時があります。こうなってしまうんだから良い映画だったんだと思うんだけど、なんだかまだ消化できなくてランキングには入れられませんでした。

 

映画ではないですが上半期ハマった映像作品第1位はHuluで配信中のSKY-HI主催のボーイズグループ育成オーディション『THE FIRST -BMSG Audition 2021-』です。

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応募者200人越えの段階から参加者を名前で呼んで、当たり前のように立ってノリノリで聞いて審査。その人がたとえ落ちてしまっても、確実に勇気になるような経験とアドバイスを持って帰らせてる姿がカッコ良すぎて衝撃的でした。1対1で与えられる大きさの愛情を、1対いくつになっても関係なく届けることってこんな方法で可能なのか。

音楽と人へ愛の深さと語彙の豊かさに感動してマジでずっと泣いてる。好きになったのがこの人でよかったと思う気持ちを毎日更新してくれるSKY-HIは最高。

 

映画『のさりの島』が見せてくれた目に見えない優しさ

3つ年下の弟が高校生の頃に、保護者会に出席したことをよく覚えている。

両親共働きの家も少なくない地域であったこともあり周りのお母さん方は特に驚かずに受け入れてくださったが、問題は知らないところで起こっていた。教室にたどり着くまでの間に、学校に残っていた生徒たちに目撃されていたのである。

 

意気込んでスーツ姿で訪れていたわたしは「ついにうちの学校にも新任の女の先生が来る」という噂の的になったらしい。教員や職員にほとんど女性のいない学校だったため、妙に目立ってしまったのだ。

帰り道、遠くから「先生あの人じゃね?」と声が聞こえた。わたしはなんとなく事情を察し、そのまま楽しませていただくことにした。10代のくせに慣れないヒールの音を鳴らして、先生を気取り男子校の廊下を闊歩するのは何ともいえない楽しさがあった。

 

あの後いつになってもやってこない新任教師に本気で傷ついてしまった人がいたら謝りたいが、2、3日のちょうど良い話題になっていたらしいので安心した。

 

 

 

思えばこの日のように、いつもの居場所でない場所で自分が何者かになれる瞬間にずいぶん救われてきたと思う。

 

過去と連続してできた自分像で頑張らなきゃいけない日々の中、自分の肩書や過去や役割を表明しなくても人によって受け止めてもらえるだけで、ふと肩の力が抜けることがある。そういう時間を支えてくれていた人の見えない優しさがあることに気付けたのは、ずいぶん大人になってからだった。

 

過去自分を助けてくれた無言の優しさを具体的に思い起こさせてくれたのが映画『のさりの島』だ。

 

 

 

主人公の若い男(藤原季節)は、単独犯のオレオレ詐欺師である。彼がどこからやってきてなぜ詐欺師になっているのかは明かされないが、その手法はあまりにも稚拙だ。おまけに彼は電話がつながった詐欺の対象者の艶子おばあちゃん(原千佐子)とズルズルと共同生活を始めることになる。

ミステリーかコメディのような設定だが、どちらにもならない。

若い男が真っ赤なバックパックと鮮やかな色のウィンドブレーカーを脱ぎ、艶子さんに差し出された淡いチェック柄のシャツを着ると、だんだん穏やかな、天草に住む若者になっていく。不思議な距離感でその日々が描かれた。

 

 

 

若者が大人と触れ合って成長する物語を想像するとき、確かな知恵と大きな愛で導いてくれる存在を期待してしまうが、艶子さんはその像とは少しズレている。

彼女は訪問した若い男を「ショウタ」と呼び、孫として彼を迎え入れるのだ。声も見た目も赤の他人なのに?若い男にとって彼女の言動はボケてるんだか何なんだか、掴めない。 

 

 

いっぽう映画の鑑賞者としてのわたしたちは、若い男からの電話を切った直後に艶子おばあちゃんが仏壇へ急ぎ写真を隠す姿を見て、彼女がボケているわけではないことを知る。

若い男が何を求めていたとしても、彼の嘘を守るために孫の死を隠す。それはなぜなのかを追うことになる。

 

 

そして、若い男の変化も。

 

 

長い旅をしてきたと思われる若い男は、孫であると勘違いしている艶子おばあちゃんからの風呂の誘いに負け、お金を持って逃げるはずだったのに家に上がり込む。

風呂場を出ると夕食ができていて、彼は出された厚焼き卵を真ん中から箸をつけて不作法に食べ、「うめえ」と言った。豪快に酒を飲み朝まで眠り、家の中を荒らし、その間に艶子さんが食事を作ってくれていたことに気付く。朝食で出された卵焼きは、端から食べた。

 

洗濯ものの干し方、お灸の仕方、お店を閉める時間の把握。人と近づいていく方法が「丁寧に生活を送る」ことであることを知った若い男は、優しくなっていく。ハンガーにかけた服の端に洗濯バサミをつけるようになり、お灸をしようかと声をかけるようになり、ただいまと言うようになり、頼まれた倉庫の片付けの進捗を報告する。自分が頼られると嬉しいという感情が生まれれたことが、その家の特有の家事に慣れていく過程が映し出されることで描かれていく。

 

 

 

艶子さんの営む楽器店に設置されたお釣りの箱の勘定は合っているのかどうか、若い男は心配そうに問う。合っていると艶子さんは答える。彼は初日にこの箱から釣り銭を盗んだ。

 

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そして艶子さんは彼に何も問わない。 

 

 

 

 

 

渋谷ユーロスペースで行われた映画『のさりの島』初日舞台挨拶には、主演の藤原季節さん・小山薫堂プロデューサー・山本起也監督に加えて、ロケに同行した小谷野祥子さんが登壇された。

小谷野さんは艶子役の原知佐子さんが映画に参加した経緯や「藤原(季節)くんっていいのよ、絶対に売れるよ」とたびたび繰り返していたというエピソードを、原さんのお写真を胸に抱えて軽やかにお話しされる。

 

『のさりの島』は語ることと語らないこと、実存とそうでないことの境界を曖昧にすることの優しさを映像化したような映画だったが、作品への気持ちがそのまま切り取られたような舞台挨拶だった。

映画の中では仏壇で写真を隠されたが、ここでは写真が持ちこまれ、原さんがそこにいらっしゃった。本作は原知佐子さんの遺作となった。

 

www.youtube.com

 

 

 

人と人が偶然居合わせただけの無関係な間柄にも意味があること、そこにまやかしが必要なこともあること、それでも存在を認め合い肯定しあう優しさに気付かせてくれる作品に出会えたことはわたしにとって素晴らしい体験だった。優しさとは、知性なのだと思う。

 

あの保護者会の日のことを思い出す。

わたしは幼く浅はかだったものの、何としても高校生の弟を合宿に連れていってあげたかった。「思い」があるだけで具体的な社会と馴染む方法を知らなかったから、周りの保護者にまともな挨拶もできていなかった。

少しでも馴染もうとスーツなんか着たわたしはやっぱり浮いていたはずで、色々言いたいこともあっただろうと思う。それでもそっとしておいてくれたお母さんたちによって、わたしは保護者になれたのだと思った。

大人と世間話できる余裕はなかったようなわたしを尊重してもらえていたこと、居てもよい場所にしてくれた人がいたことを、この映画と共にいつも覚えていたい。

 

 

 

 

 

藤原季節と塩塚モエカ『迎夏 夏と朗読』を観た

俳優・藤原季節さんによる朗読と、羊文学のギターボーカル・塩塚モエカさんの音楽による公演『迎夏 夏と朗読』を観た。魂がふるえた。

 

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わたしは語らないことで守られる美を信じている。自分にとって大切な作品や大切な言葉の一部に対し、自分の中だけに大切にしまっておきたいと思うところがある。

誰にも言わないことを選ぶことで、自分が美しいと思う部分をピックした感性をそのまま保存しておきたい。誰の考察にも感想にも触れないで、どんな言葉も周りに飛び交わせることを選ばず、感じたものだけが純粋にそこに残る。その事実が自分を救ってくれることがある。あの日観た朗読は、そういう場所に置いておきたい種類のものだった。

知らなかった強烈な感情と出会い、大きな人の熱を目の前で観る時間を過ごしたことは身体感覚まで変わるような経験だった。だからもう一生の思い出にして終わろうと思った。ただ思い直した事情があるのでこれを書いている。

 

『迎夏 夏と朗読』は新宿MARZというライブハウスで企画された、1日のみ2部制の公演だった。

コロナ前ならキャパ300くらいの決して大きいとは言えない会場だったのでチケットを取るときは争奪戦を覚悟し緊張したものだったが、当日座席の入った会場は想像を超えた状況だった。50席しかないのである。

 

つまり、あの素晴らしい公演を生で観た人類はのべ100人しかいないのだ。わたしのように2部通しで観た人もいるだろうと思うと、実際の人数は。恐ろしい。配信された回はあったが、こんなミニマムな人数を目掛けてあんな公演が用意されたのだと思うと、ゾッとする。こんなふうに演者が魂をつかった公演がご時世のせいでどのくらいの量見過ごされているのだろう。

わたしはあの公演をこの目で見たと残すことで自分の気持ちに対して決着をつける責任があると思った。

そして配信チケット購入の時間がギリギリまだ残っている。せっかくならやはり多くの人に観て欲しいので、この文章が誰かに届くかどうかは置いておいたとしても、終わる前に間に合わせたい。時間がないので事実関係の確認をすっ飛ばしてしまうかもしれない。それでも今覚えている見てきたことを残すことに意味があることを信じる。

 

 

藤原季節さんのことが好きになって2ヶ月ほどになる。

急激に自分の中に季節風が吹いた(季節だけに)せいで人に彼の話をすることが増えたが、彼のアイドル性、どこに行っても主役になってしまうキャラクター、分かりやすくキャッチーな部分が口を突いて出てくる言葉になりやすいことに自覚的になってきた。

スターっぽいエピソードや人物像の面白さが第一印象になりやすい人であることは間違いないと思う。舞台挨拶で唐突に文脈なく服を脱いでBCG跡を見せてきたり、かと思えば人目を厭わず作品に対する思いを語りながら大号泣したりする。その姿は過激なように見えてなぜか人の気持ちを引かせてしまわず、魅力的に写ってしまう。だから彼の作品や演技や感性を語ることが目立ちにくくなるかもしれない。

例えば今回の朗読の宣伝なのか突然Twitterに舞い戻ってきた彼の3ツイートはそれだけで力がありすぎた。

 

 

 

 

朗読を終えた今これをみると意味が分かって泣けてくるので、本人はかなり本気でこれをやっていると思うのだが、これだけ見たらやっぱり面白く不思議な人柄が全面に出てくるし、気軽にツッこめる隙がたくさんある魅力的な人だと思う。なんで半裸なんだよ。

 

 

それでも聞いてほしい。藤原季節という人はすごい人だった。

 

 

 

わたしが好きになった頃にはすでに主演映画も全国で数本公開されていたし、大河ドラマにも出てたし配信サービスに彼の作品が追いきれないほどある売れっ子であったので、自主企画をライブハウスと共同で打つという取り組みにまずは驚いた。

定期的に朗読が行われていたらしいことは後から知った。好きになった人がこういうインディペンデントな精神を持っている方であったことはシンプルに嬉しかった。自分の表現を希求する人のことは好きだ。ただ配信のみの公演は後から見ることができず記録に残っていなかったので、どんなものなのか分からない状態で公演を楽しみにしていた。

 

披露するのは夏目漱石の短編『夢十夜』と発表されていた。寝る時に見るほうの「夢」の話が描かれる10篇は、矛盾があり理解の範疇を超える夢らしい描写が続く。そのぶん人の根幹や情緒が浮き出るようで瑞々しい。

共通するワードが数本にあるものの同じ人物は出てこないので、あらすじを描きにくく、ストーリーテーリングするには難儀かもしれない。乱雑に表現すれば『世にも奇妙な物語』のような、ゾッとするもの、不思議なもの、美しくロマンチックな断片がある。

なぜこの小説は「夢」らしく読めるのだろうか、などの視点から分析される作品でもある(それこそ夢分析や心理学的観点からも語れそう)。解釈も分かれるので、漫画や映画など関連作品もある。自分の見た夢でさえあんまり記憶に残らないし、整合性に欠ける夢の話は物語を追い難くなる題材でもあるので、ともすると眠りを誘う。なぜあえてこれに挑戦するのだろうか?

もうこのチャレンジングな精神を背景に感じるだけでかなり「好き」が溢れるのだけど、公演直前に公開された愛読書を語る記事によれば純粋に好きな作品らしいことが分かり、彼の芸術に関するセンスも「信頼できる!!」と山に向かって叫びたい気持ちだった。

 

www.ellegirl.jp

 

 

朗読の企画で音楽をその場で鳴らそうとしていることも面白い。しかもお相手が羊文学の塩塚モエカさんであったことも本能的に素晴らしいと思った。舞台の上で優雅に椅子に腰掛け、夏目漱石の本をめくる音が聞こえ、物語を彼の声で聞く。きっと朗読には解釈が含まれる。短編と短編の間に、彼女のギターと歌が聴こえる。完璧だ。好きな人を人選していると直感した。目撃しないといけない。

 

とりあえず何が行われるのか不明なので自分もできるだけ丸みのある石を拾って持ち帰って一緒に過ごしてみた。夢十夜の中に石が登場するので、それのイメージづけのために持って稽古してるんだろうなと思ったのだ。

 

 

やってみたが素人にはよく分からなかった(それはそう)。

 

 

 

会場に入ると、自分の席が最前列中央で目眩がした。

なんとか気を確かに持って座ると薄いベールに包まれた舞台にはギターとソファが並んでいた。ソファの上に白い布がかかっていた。天井にはドレープ幕がかかっていた。想定していた「朗読」の世界とあまりに違ったので戸惑った。何が始まるのだろうか。

 

開場時間の30分後に幕はあいた。もそもそとソファの上が動いた。わたしがソファにかかっている布と思っていたものは白い服を着て丸まっていた藤原季節だった。そんなのアリだろうか。なされるがままになるしかない覚悟をした。

 

そこから先に起こったことは今の時点で語るにはネタバレになってしまうので抽象的な話だけしていきたい。

 

わたしが想定していたどの朗読とも違っていた。そもそも彼は本を持っていなかった。全ての話は読まず、順番も変えていたし、かなり構成を練られた演劇のようでもあった。それでも原作に忠実だったし、「朗読」らしさがあった。同時にしっかりと彼の解釈もよく分かった。

音楽は、劇中歌のようにも効果音のようにも使われていた。目から鱗がボロボロと落ちた。綿密な打ち合わせと思考の手数を感じた。どこからどこまでが彼による構成なのだろうか?彼は演者としてだけでなく、おそらく脚本も演出も手掛けていた。朗読でここまで?凄まじい。いわゆる朗読劇をやろうという出発点でなく、作品の表現の起点に朗読があるといった感じだった。作品を考えることを諦めない人の結果だと思った。

 

モエカさんの歌は幻想的な空間に自分ごと連れていってくれた。ライブと言っていいくらいの登場時間だったと思うけれども、ワンマンショーのような雰囲気にならず、作品にのっとって音楽が鳴らされていた。朗読とともにある音楽だった。物語をつなぎあわせる役割でなく、絵本の挿絵のような形でそこにあった。どんなバランス感覚なのだろうかと思ったけど、答えは原作への愛なのだろうと思う。

 

 

いったいどんなふうにあの物語がまるごと入って、口から声として出ていたんだろう。不思議なのだけれど、一人芝居のような構成なのに、朗読と感じられた。その要因のひとつには、声と滑舌が素晴らしいことが挙げられると思う。感情的でエモーショナルなシーンは少なくないのに、声が震えても顔が動いてもそれでもはっきりと何を言っているか分かる。人の目ってこんなに丸くなるの?と思う瞬間も、全てが黒目に見えるように美しく目を細める瞬間もあった。とにかく表情変化の初速が早かった。

顔が動く。顔が動くということは、口の中も広がったり歪んだりするはずで、声も変化すると考えるのが普通だ。それでもずっと声はこちらの頭の中に文字が打ち込まれたように明瞭だった。コントロールされているんだろうと思う。自分の演技を見せてやろうという気持ちが見えない。原作を伝えようとされている愛情を感じた。

それでいて、確実に何か憑依してるんではないかと思う瞬間があった。目の前にいる彼は体温が見えるくらい熱く、圧倒された。本当に夢の中のようだ。

 

変な話をするのだけれど、わたしは彼としばらくずっと目が合っていた。これはわたしだけでなくて、あの会場にいた人はそういう瞬間が訪れていたんじゃないかと思っている。物理的に目が合っているわけでないのに、真っ黒な目の奥を感じることができた。集中することで、解放感を得る。身体感覚が変わっていく、ああいう経験は他になかった。

 

特に感激したのは最後に読まれた一編だった。原作でも一番大好きな一編だ。

わたしはあれを静かに恋人を思う淡々とした愛の話だと思っていたが、彼の解釈はまるで違うものだった。狂おしい愛情が美しいと思えることがあるのだなと、ただただ涙が溢れた。劇中で植物が育つ瞬間を、モエカさんが表現していた。音楽にこんな力があるのかと脱帽した。

 

これは想像の域を出ないのだけれど、今年公開された映画『くれなずめ』や『のさりの島』が表現に大きく影響しているのではないかなと思った。見えるものと見えないものの境界は曖昧で、何かを信じる力があれば実存にそんなに意味がないのかもしれないということ。「夢」の話でちょっと見たことのない解釈が足されていたように思った。そしてあれを見たらとんと腑に落ちてしまった。

 

 

公演が終わるとしばらく動けなかった。手が痺れる感じがした。ぐったりとしたけれど、不思議とめちゃくちゃお腹が減っていて笑った。生命維持を身体が欲している感じがした。大自然にでも触れたみたいだ。

 

 

思えば昨年の初めての緊急事態宣言の頃、どう生活すればいいかわからなかった中、思考を止めてはならない事情があった。あらゆる世の中の仕事がそうだったと思うけれど、守るべきものがあったし、守るべき人がいた。それをどうしたら止めずにいられるのかを考える責任があった。

それがもう1年続いているのに、まだ自分ひとりで考えなければならない段階のことがあるし、状況が変わり続ける。それは考える必要があることだし、続けようと決めてもいる。そうして仕事を終えた帰路に、缶のアルコールを片手にフラついている人たちとぶつかりそうになると、泣きたくなる。一時的に心が折れる。やめてしまいたいと思うし、何も考えたくないと思うこともある。想像力がなくなってしまう。別に彼らが悪いわけじゃない。

 

そういう毎日でこの公演に出会えたことは大きな希望だった。鑑賞する人と夏目漱石の作品のために、大きな愛と敬意を持って表現している人がいること、それが素晴らしかったということは記念碑的な出来事だった。あの公演のどこからどこまでが彼の構成で企画だったのかは知り得ないけれど、細部まで愛があった。

 

ライブハウスを出て食事をし新宿駅に向かうと、大きく月が出ていてた。印象的に月の光が出てくる一編を思い出した。朗読の続きみたいだった。二日後に満月という日に雲もなくビルに埋もれずガンと出ていた月は美しくて妖しくて、夢との境界が曖昧だった。日常も悪くないと思えた。

 

shinjuku-marz.zaiko.io

 

よかったら観てください。2021年7月25日20時まで販売、23:59まで視聴できます。

 

 

 

 

「藤原のシーズンが到来した」season2 〜藤原季節さんにハマり、俳優のおたくには素材がありすぎると知る1週間〜

お元気ですか。みなさんのところにはどんな風、吹いていますか。

映画『くれなずめ』に出会ったことでわたしのもとには季節風が吹き、藤原のシーズンが到来しました。何を言ってるのか分からないかもしれませんが、わたしにも分かりません。その動揺から5月1度も更新してなかったブログを連日アップしてしまった、俳優・藤原季節に唐突にハマるまでの前回の話がこちらです。

 

door-knock.hatenadiary.jp

 

わたしは女性アイドルのおたくをここ10年ほどしてきました。

人に説明する時は分かりやすいように「マツコ・デラックスと趣向がほぼ一緒」と言ってきたんですが、昔から「男性が好きだけど人に美を感じる対象になるのが圧倒的に女性」だったので、人の美しさを発見することも男性に対してはかなり下手だと思います。

ここ最近は映画が好きな友人に恵まれたおかげで男女問わず好きな俳優さんが増えてきましたが、去年辺りまではあまり知らない男性に好きなポイントを見つけることができなかった。「好きなタイプは?」っていう世間話の返答に困るけど『石原さとみのすっぴん旅inスペイン』の着目ポイントなら具体的に挙げられる、みたいな人でした(Amazonプライム会員はぜひ観てください)。

 

そんなわたしに突然やってきた「男性俳優の沼」に心底動揺しています。

いきなりの方向転換すぎる自分の心情にもびっくりだし、徐々に分かってきたのですが女性アイドルを追いかけるのと勝手がかなり違う。まず

 

 

おたくする用の素材がありすぎる。

 

 

俳優さんもおたくのみんなもすごいな、いつ寝てるんだ。

 

アイドルの場合、ファンが楽しむ機会としてコンサートがあることはもちろん、作品について語る機会もトークイベントとして開催されます。つまり「お金を払ってその語り口を楽しませていただく」気持ちの用意を持っておたくをやってきました。

しかしお仕事の構造上違いがあるんだと思うんですが、俳優さんは映画やドラマというコンテンツの宣伝としてメディアや舞台上で語る機会が非常に多いということが分かりました。宣伝のためなので、その多くが無料で公開されています。マジかよ、そこにもお金を払わせてくれよ。

 

例えば彼の主演映画『his』。

去年劇場で鑑賞していたからネタバレも怖くないし、舞台挨拶の動画があれば見てみたいなとYouTubeで調べてみると、下記項目でざっと90分ぶんの動画が出てきます。出演作分作品と共にこの量、いつ見切れる?

社会的にも藤原のシーズンが到来してるらしくて、藤原季節さん超多作なんですよ。作品観るだけですでに毎日寝るのが2時すぎなんですけど。

 

完成披露試写会 (約11分)
公開記念舞台挨拶 (約26分)
大ヒット記念舞台挨拶 (約17分)
名古屋舞台挨拶 (約13分)
インタビュー (約5分、4分半、11分半) 

 

トークノーカットであったのは公開記念舞台挨拶のみ。調べてみると公開時の挨拶は約30分、その後の舞台挨拶は20分程度行っているようで、実際にはYouTubeで見られる時間プラス30分ぶんくらい語ってるはず。作品と同じくらいの多くの時間をかけて映画を語っているらしいことがすでにわたしには衝撃の事実でした。作品によっても公開されている動画の長さや量に変動がもちろんあり、『くれなずめ』は関連動画が3時間分くらいありました。

 

俳優さんであったって時間は平等で普通の人間と変わらないわけで、20代なら20代の人生経験で脚本を消化し、作品で表現されているわけですよね。それをさらに言語化する機会がこんなにあるなんて、インプットに対するアウトプット量が過多だよ。自分を消費しすぎてしまうんじゃないかなと心配してしまうほどです。

 

どれだけ大事な作品でも同じ話を繰り返さなきゃならないだろうし、同じ内容にならないよう言葉を探すくらい新鮮な気持ちを持ったままで居続けるには……大変だろうな……大変…………

 

 

 

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忘れてました。わたしが好きになった藤原季節さんが、常人ではないことを。何これすごい泣いてるんだけど。

 

 

 

 

www.youtube.com

 

 

ヒット御礼舞台挨拶の動画を開くと「個人的な話なんですけど、今日自分もhis観ました。感じることがいっぱいありました」と語り始めていきなり号泣されておりまして、いったん動画を停止しました。

 

娘役の外村紗玖良ちゃんが一緒だった舞台挨拶ではこんな感じでウキウキのご様子だったのに

 

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youtube.com

 

情報が多いよ、一体どうしたんだよ…。

紗玖良ちゃんと飛行機ごっこで1時間遊んだりコタツで丸くなって寝た話とか、紗玖良ちゃんに作ってもらったプラ板のキーホルダーを家の鍵につけてる話とか、紗玖良ちゃんと本気で喧嘩して2日間くらい口を聞いてもらえなくなって、学校の音楽室で「紗玖良ちゃんごめんね」って謝って許してもらった話とかをもっとして笑ってよ…。

 

  

ひととおり自分も泣いてから(泣くんかい)動画の再生に気持ちを持っていきました。試写や公開記念舞台挨拶、インタビューと『his』を語り思い出す日々が死ぬほど積み重ねられているはず。それでも保たれているこの作品への純粋さ、どうなってるんだろう。

もちろん作品それ自体が素晴らしいし、作品に参加した経験への愛おしさがあるとも思います。公開後に開催されたこの機会、渚を演じた藤原季節は作品に寄せられた「渚が勝手すぎる、娘が可哀想」という感想を一挙に引き受けていたタイミングだったのかもしれません。

 

『his』は男性同士の恋愛とその先が描かれる物語です。初恋の相手の渚(藤原季節)に突然別れを告げられた迅(宮沢氷魚)は、ゲイとして生きるには厳しすぎた社会を離脱し、自分を隠して田舎暮らしをすることを選びます。静かな暮らしを営んでいたところ突然現れたのは8年前に別れた渚と、渚の娘。

確かにそういう声が起こっても不思議ではないあらすじです。

 

彼は受けた感想に焦点を当てて批判の声に批判で返すのでなく、公開の後にもこの物語に決着をつけていない自分自身の考えを語ってくれています。そして「このhisという物語と登場人物たちを信じている」という姿勢を強く提示して、愛情を示してくれました。

宮沢氷魚さんと住み込み二人で生活を共にして、ハードなシーンの日は深夜まで飲み明かしながら、役について分からないことを語り合いながら撮影したというターニングポイントとなった主演作。色々言いたいことはあるんじゃないかと思うのに、自分の作品への思い入れをそのままに、全部分かったように語るのでなく、作品に対する自分の感受性をまったく閉じずにいることを明かしてくれる強さと繊細さに感服しました。

すごいなほんとに、この姿勢見習わなきゃな。いろんなことをわかった気にならないで自分の揺れも受け止めて、ずっと自分の価値観をアップデートしていきたいよ。

 

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宮沢氷魚さーーーーーーーーん!!!!!!宮沢さん聞こえますかーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

素晴らしい画を!!!ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

沼に浸かったわたしに松居大悟監督のラジオ「JUMP OVER」ゲスト出演ほかメディア露出も多く、現在進行形で溢れてくる情報も良すぎました(待ち受け画像にするほど尾崎豊が大好きで、深夜のJ-WAVEで尾崎の「僕が僕であるために」をかける・緊張しすぎてお腹痛くて途中でトイレ行くなど全エピソードが良すぎた)。

そしてこれまでの情報を追うのにTwitterは優しく、藤原季節さんのファンの方々が話しかけてくださったり(本当に優しい)おともだちが「これは見ましたか」と作品を教えてくれたりします。

彼の出演ドラマ『西荻窪三ツ星洋酒堂』を勧めていただいたところで、事件が起きました。

 

 

 

 

まさかのドラマ原作者である漫画家・浅井西先生からのリプライ!!!!!!!!!!!???????????

直接ドラマのインスタアカウントを教えていただけるとは、なんてことでしょう…なんだかブログまで読んでいただいてしまったようで、あまりにも恐縮で帰りに漫画を買って帰りました。絵の綺麗さと優しいストーリーで癒され、とても楽しく拝読しております(深々とお辞儀)。

こんなインパクトを持って知るとは思いもよりませんでしたが、「作品のインスタアカウントがある」というのは盲点でした。映画やドラマの宣伝でそういうのを見たことがあります。「季節さんとっても自由ですよ」というレコメンド文も気になる。さっそくフォローしに見てみる…と…

 

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すごい投稿数あるんですけど。オフショットこんなに公開してくれるの?

 

高校の同級生3人でお客さんを出迎える洋酒堂での日々を描くこのドラマ、ひとりひとりの人生に寄り添う優しい空気の流れるお話でした。藤原季節さんはシェフ役として登場しています。

このような舞台設定ゆえ、ファンになりたて初心者マークのわたしの目に優しすぎる様々なシチュエーション・ビジュアルのお姿があふれる作品でもあったのです。お料理をする藤原季節、エプロン姿の藤原季節、よく笑う藤原季節、子どもをあやす藤原季節。うん、インスタとこのドラマの相性良すぎるね。

リアルタイムを逃していてもSNSに写真や動画が残っていて楽しめるから、何度も新鮮な気持ちを持てました。こんなに噛みしめられるコンテンツが無料っていうのは何かのバグではないですか? 大丈夫かな不安になるよ。

 

www.instagram.com

 

 

告知動画なのにちょっとよくわからない動きを1人だけしている動画とか、いちいち目を閉じていったん気持ちを整える必要があるくらい素晴らしいです。本編見たけど、この告知動画の肘からファイヤーみたいな動き、まったく関係なかった。

 

ここでよく分かったのは、これまでの彼の出演作品のSNSもチェックする必要があるということです。5月末に映画の公開も待ち構えてるし、新しい作品が増える前に色々見ておきたいな〜!とSNSを開くと

 

 

 

 

 

舞台挨拶に登壇するとのお知らせ。つまり映画館のこの回のチケットを買えば藤原季節に会える。沼にハマってわずか9日、いわゆる現場のお知らせが届いてしまいました。

 

 

 

 

しかも2日連続でした。藤原のシーズンが、真の意味で到来します。わたし、大丈夫でしょうか?大丈夫ですか? 

 

 

 

 

藤原のシーズンが到来した ~映画『くれなずめ』で俳優・藤原季節さんに唐突にハマった日~

みなさんには好きな季節がありますか?桜がきれいな春ですか。海の香りの夏ですか。日本には美しい四季があって、それぞれに魅力があって、個人的な思い出もありますよね。好きな季節、決めかねますよね。うん、それでいいと思うの。わたし今、自信を持って言えることがあるんです。

 

「どの季節も、好きでいよう」

 

ごめんなさい帰らないで、順を追って話す。

 

先日『くれなずめ』という素晴らしい映画を観て、ひとつブログを書きました。

自分の人生において説明のつかない出会いと思い出の断片、それらへの愛情の持ち方を鮮明に思い出して励まされる、すごい作品でした。

 

door-knock.hatenadiary.jp

 

『まともじゃないのは君も一緒』『街の上で』など最近観た成田凌出演作品がどれも素晴らしかったという理由で選んだので前情報をほとんど入れてなかったのですが、想像以上に自分にとっての大切な映画になりました。

 

パンフレットを購入して帰宅するとさらに映画の世界を感じていたくなり、SNSを開きました。すると完成披露舞台挨拶・公開予定日だった日に放送されたトークイベント・5月の公開舞台挨拶があったと情報を発見。出演者も登壇されています。見たかったなあ、と思っていたら全てノーカットトーク動画がアップされてる。現代最高。

 

せっかくなので順に見ていこうと、4月15日の完成披露舞台挨拶の動画から再生しました。役名と名前を言う自己紹介のくだりから、ホッカホカの感動直後なので胸熱です。ああ!あの6人が存在している!!

ダサい鞄を背負う主人公の吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)、アツい性格で役者の明石(若葉竜也)、いつのまにか結婚していた後輩のソース(浜野謙太)、同じく後輩で会社勤めの大成(藤原季節)、工場で働くネジ(目次立樹)。

普通にニコニコ見てたんですけど、ちょっと引っかかることがありました。

 

www.youtube.com

 

ちょっと待って。あれ、藤原季節ってこういう人なの?

 

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順番回ってきたのに役名が言えなくて「忘れた?」とつっこまれながら、なんだか全力笑顔の無邪気な感じで元気よく自分の名前を叫んでいます。劇中での彼は一人だけすっごく忙しそうにして、現実的で地に足ついてる人ですよオーラを前面に出してイライラしていました。

ここ最近彼の出演する映画をちらほら観ていて、すごい俳優さんだなとは思ってたんですが(『his』とか『佐々木、イン、マイマイン』とか)どこでもわりかしシリアスな顔を見ていたので、意外だなーと思いました。

まあ、役とご本人を同一視するのもねえ、と反省しながら動画を視聴し続けていると、事件が起きました。

 

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司会「藤原さん、今回本当に急遽、舞台のお稽古の後に駆けつけてくださったということで本当にありがとうございます」

藤原「はい」

司会「お衣装とっても素敵なんですが」

藤原「あ、はい、これはそうですよ。何を隠そう高良健吾さんに頂いた服ですよ」

司会「あっそうなんですか」

藤原「靴は成田凌にもらって」

 

 

 

待ってください。情報が多いのでここでいったん動画はストップします。

情報を整理しましょう。「高良健吾にもらった服と成田凌にもらった靴で舞台挨拶に登壇している藤原季節」

 

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高良健吾にもらった服と

 

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成田凌にもらった靴。

 

やべえだろ、何それそんなことあるの?

高校の友達6人の物語っていう設定の映画の共演者同士で服や靴をプレゼントしてる状況もヤバいし、それが嬉しくて舞台挨拶に素直に身につけて登壇してる感じもヤバいし、舞台の稽古から駆けつけてるのにそれ持ってくるモチベーションあるのもヤバいし、司会者がそれを知ってるくらいみんながその情報で浮かれてるのもヤバい。良すぎる。そんなに良い世界がこの世にあるのか?

 

とりあえず心を落ち着けて続きを再生しました。

 

成田「俺結構きれいな状態であげたんですけどね。サッカーしてきたのかもしれない」

藤原「いやサッカーしないでしょ」

高良「俺もこんな破けてる状態じゃなかった」

藤原「いやそれは最初からでしょ。デザイン、デザイン」

若葉「あんま似合ってないよ」

藤原「あんま似合ってないって言った?」

成田「舞台の稽古それでしてきたの?どんな舞台なの?」

 

 

これは…これは大変なことになりました。

誤解のないように言っておくと、彼らはとても仲は良さそうでしたが内輪ノリで終わらせる印象はなく、むしろ作品への愛情が滲んでいるような空気感があり、俳優だけでなく作品のこともちゃんと立体的に見えるようなお話しをしてくれていました。

 

ただやっぱりこのくだりはヤベえよ。

ちょっと後輩役だった藤原季節が服と靴もらってウキウキしてる感じも良いし、そういう嬉しさを恥ずかしがらずに大事な日に持ってくるところも、この作品に参加して良かったと思ってるんだろうなと想像してしまうようなフックになっててすごい。急に名前出されて藤原季節をいじりにかかる俳優陣もすごい。

この後の部分もぜひ見ていただきたいんだけど、この撮影を通して出演者みんなのことが大好きになって、みんなの魅力をすぐ言えるくらい発見した!と目をキラキラさせて言った藤原季節が具体的に挙げていくのがほとんど顔の話なところとか、めちゃくちゃ面白いです。

 

その後も公開予定日だった29日の生配信トークイベントで

 

www.youtube.com

「タトゥー入ってます、これ、赤ちゃんのときから」となぜかBCG跡を突然見せて場を騒然とさせるも

 

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「それでも『くれなずめ』を届けることを諦めない」と真面目なコメントを残し、

5月の公開記念舞台挨拶では

 

www.youtube.com

「今その話、僕しようと思ってたんです」と司会者の話を遮ってまで主題歌の感想を興奮気味に語り

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いったいどんな人なんだ…と大混乱しながら、すっかり藤原季節を目で追うようになっていることに気が付きました。検索すると彼のブログを発見。最新記事が『くれなずめ』公開日に上がっていました。

 

lineblog.me

 

舞台の中止、映画の公開延期が決まったこの5月の日々のことが書かれています。いろんなことが止まって、何もできなくなる日々。

 

天気が良かったのでダラダラ歩く。渋谷ユーロスペースの横の階段に座ってボーッとしてたら松居大悟が通りかかる。「なんにもしたくないです」って言ったら「なんにもしなくていいでしょ」って言われて謎の自信が出る。

 

こんなことがあるのか、と思う運命的なことが起きています。

大切な映画の公開が延期になって散歩して映画館横でくれなずんでいたら、その映画の監督が偶然通りがかる。そしてふと言った一言に、響く言葉が返ってくる。

感受性のゆたかな人にはこういうことが起きちゃうんだろうな。なんだか納得してしまうような一文です。

アンダーラインを引いて覚えておきたくなるような出来事はたまに人生に起こるけど、人生は積み重ねで、昨日と今日はそんなに変わりません。

ブログを読み進めると、そういう日々が見えてきました。

リハビリのためと映画を観よう思っても、なぜか観られない。本を読もうとブックオフに行ったけど、読めない。自炊に飽きる。

淡々と、トライして諦めて、でもそのグラデーションの間にいることを残そうとしている跡。

 

こんなに正直な表現者がいるんだ、と眼から鱗が落ちました。語彙も文章も素晴らしい上、デジタルの文字なのに筆圧の強さを感じる。

 

この人はこの日々を、なかったことにしないようにしようとしている。同時に、なかったことにされてきたことを大切にしようとしている。こんなに優しい人がいるもんなのか、と気がついたら号泣していました。

 

成長もしたくない、変わりたくもない、乗り越えたくもない、切り替えたくもない、別に前に進みたくもない、連絡も返したくない。何もせずただ引きずって、「生きるだけだろ」と心の中で呟いていた。

 

ここを読んだのはすでに夜中。誰も起きていないような時間に読む「成長もしたくない」「変わりたくない」「乗り越えたくもない」「切り替えたくもない」「生きるだけだろ」は、どれもこれも一文字ずつ、心の中でなぞって書けるくらいに同じ気持ちになりました。

文末を緊急事態宣言によってこの日が公開初日になった作品たちへの言葉で結んでいることも、とんでもなく優しい。

 

彼らほど大きな環境の変化がないとはいえ、わたしにもやっぱり日々感性を鈍らせるようなことがあり、それらを無視することへの罪悪感があり、でもそれは言葉にもなっていませんでした。ああ、すごいなこの人は。この人の表現にもっと触れてみたい。次のブログが公開されたら、絶対に通知がくるようにしよう。

LINEブログだったので、公式LINEに登録すると通知が来るようです。すぐにアクセスできた公式LINE登録のボタンを押すと、彼から1通のメッセージが届きました。

 

 

 

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2021年5月16日。わたしに藤原のシーズンが到来した。

 

 

映画『くれなずめ』を観た後、一体あれは何だったのか全然わからなくて、でも最高に爽快な気分で、彼女と話した後みたいだった

先日、高校時代からの友達のギャルと長電話した。彼女が突然「別になんもないんだけど、あんたが好きな音楽が知りたい」と言ってくれたのだった。

高校から一貫して浜崎あゆみの歌詞に共感し続けている彼女に、教室の隅にいたわたしの趣味のどこが触れ合うだろうか。いや、自分の趣味に自信はあるが、そういう話ではないから難しい。Apple Musicと格闘しながらわたしが好きで彼女もどこかで出会っていそうな日本人のバンドや歌手を10、20と挙げたが、見事にひとつも伝わらなかった。「やっぱあんたムズいわ」と言うので二人で爆笑し、この人はやっぱり可愛いなあと、どうでもよくなった。近況を詳細に報告しあった。

 

彼女は出会った頃からいつでもどこでも物語の中心にいて、可愛くてかっこよくて、夢に恋に一生懸命!を地でいくタイプだった。無気力に時間をやり過ごしていたどう考えてもダサめのわたしになぜか熱心に話しかけてくれて今に至るが、今も昔も趣味嗜好に接点がないので共通の友人もいない。どこに興味を持ってくれたのかずっと謎だった。

30歳をすぎた頃になって「影がある感じが魅力」と言われ、そのときも爆笑した。いい大人が同じことを他の誰かに言われたらさすがに自分を省みたりしそうだが、彼女に言われたのなら、それはただのいい話である。

 

映画『くれなずめ』を観た後、一体あれは何だったのか全然わからなくて、でも最高に爽快な気分で、彼女と話した後みたいだった。なるほどと思い、よかったらぜひ映画を観てほしいとLINEした。

劇中では何度もウルフルズの『それが答えだ!』が流れ、エンドロールでは新曲が流れた。そうだ、わたしと彼女の世代にはウルフルズがいる。ウルフルズは誰と誰の間にも線を引かない。そこに乗っかるのがどんな気持ちであっても、意味なんてなくても、人をつなぎあわせてくれる。勢いに任せて中古の8センチCDシングルをネットで買った。

 

kurenazume.com

 

 

『くれなずめ』では高校の帰宅部仲間6人が、赤いフンドシ一丁で踊る「赤フンダンス」を高校の学園祭以来、友人の結婚式で披露するために再会する。披露宴と二次会の間の暇つぶしの時間、思い出す過去と今が交差して展開される物語の中で、この6人がとある人物の死と向きあわずにいたことが浮かび上がってくる。

過去のシーンでは男子たちのなんでもない会話が繰り返されていた。ダサい鞄、トイレで手を洗うことへの見解、流星群、ウルフルズ。トピックは入れ替り、何かを言っているようで何も言っていなそうな内容が飛び交っていく。わたしたち女子はあの人たちが男子トイレやカラオケボックスや誰かの家に入ってしまったらその後のことは知り得なかったが、こういうもんなんだろうなと男子がうらやましくなった。そこにいることがなかったわたしも不思議と疎外感はない。彼らの温度感でアホな会話やとんでもない展開に笑っているうち、忘れていた「死」の気配に胸が掴まれるように苦しくなる。

 

作中の死者に線香をあげに行った人物が、車で駅まで送ってもらった帰り道「なんか、お菓子もらいに来た人みたいになっちゃって」と言った顔が忘れられない。思いっきり泣くことも強がることも選べていないような、自分に湧いてくる気持ちに戸惑っているような、どこにもいけないすごい表情をしていた。彼の顔を見ていたら、自分の顔もこんな感じだったかもしれないとよぎった。わたしは、彼女のお父さんのお通夜を思い出していた。

 

わたしたちはまだ高校二年生だった。初めて出会う身近な死の感覚はあまりにも壮大で、それなのに目の前に迫ってきている決めなきゃならないことは「何時にお通夜に参列するか」や「お母さんに何と声をかけるべきか」や「今メールするのはアリなのかナシなのか」で、こんなに大切な物事を前にした自分がなんて俗っぽいんだろうと絶望した。心は追いつかないのに、進んでいくことが多すぎる。やっとたどり着いた会場で会えた彼女の彼氏の顔が、嘘みたいに整っていたことばかりが頭に残った。

 

今まで信じていたものが急に頼りないものだと思ってしまったとき、手に持ったお菓子とか、何でもいいから手触りのあるものを通じて話をせずにはいられなくなったんじゃないだろうかと思った。劇中の彼はその後開けたヨックモックを道端に落としてしまって、割れたシガールを食べた。

 

あとからトークショーでのようすの動画を見たところ、この映画はほとんどアドリブがなく撮影されていたという。長回しが多くて掛け合いも多い。友人同士として役を積んでアドリブで作ることが美談にもなりそうなタイプの物語だが、脚本のある、秩序だったプロセスを踏んだ作品であったことに納得した。

強いホモソーシャルが打ち出された作品を見ることは珍しくなった。それでもこの作品の各シーンが愛おしいのは、割れたシガールを見る表情に胸を掴まれたのは、内輪ノリが過ぎるようなものにならないように敷かれた繊細なルールが根底にあるからなのかなとぼんやりと思った。それは友達への思いやりと似ている。

 

劇中の6人がなんらかの権威や、あるいは権威から排除されて集まっている関係性でないところも好きだ。学年にばらつきがあって、好きなことも違って、現在の仕事の種類も違う。人生に向かう気持ちも違う。外の世界で感じる居心地の悪さを知っていて、この6人以外の他の誰かには伝わらない人生の一部を共有している。そこにたまにアツくなりながらヘラヘラごまかす。

スクールカーストという言葉ができて久しい。けれど、実際の教室はその線引きが絶対的ではないはずだ。なぜかそこを飛び越えたり偶然隣り合ったりしながら結んだシーンが特別になったり、説明できない物事が起こることもある。モテてた男子グループと偶然カラオケで会って1曲一緒に歌ったこと、ほとんど話したことのないクラスメイトに卒業式の日急に泣きながら電話するねと言われこと、塾だけでしゃべってた同級生。YESかNOかで答えられる質問や好きか嫌いかで決める価値観、賛成反対を明らかにし続けることでこぼれていくどうでもいい時間が何かを生んでいたことは、不意に思い出され、わたしを励ます。

 

 

ほとんど共通項がない彼女と夜中の3時まで長電話する仲でいるのも、色んなものを決め込まないでいられているからかもしれないと思う。彼女から急に届く歌詞を書き写しただけのメールは、正直半分くらいは意図がわからないが、何か一言返して「好きだよ」とか「ありがとう」とか伝えられれば、お互い別にそれでよかった。実際わたしは彼女のことがかなり好きで、このやりとりを卒業する必要もない。

「あいつ浜崎あゆみ好きだよなあ」って言われるほどの個性は、わたしにはない。それは生きてるときついこともあるけど、それでいい。

大人になったわたしたちには決めなきゃいけないことが多すぎるし、それができなきゃ自分がないと思われてしまう世界とずっと闘っている。彼女が何かに悩んだら、はっきりさせようとすんなよ、とわたしも言ってあげたい。

 

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昼でも夜でもない、日が暮れそうでくれない、暮れなずむ時間を命令形の動詞にしたタイトルは、この曖昧さを愛おしむことへの愛情が見えてやさしい。

 

どこまでも自分の映画と思ってしまい好きで好きでしょうがない『くれなずめ』。上映期間とかヘラヘラ無視して、グダグダと永遠に映画館でかかり続けてくれないかなあ。本当に好きです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラムダンクの女性キャラクターはNegiccoの誰推しなのか考える

アイドル現場に通いはじめて10年になったわたしの嗅覚は、『スラムダンク』にキャラの立つ女おたくが紛れてるんじゃないかと直感をはたらかせました。

ということでスラムダンクに登場する女性キャラクターはNegiccoの誰推しなのかを、キャラクターの特徴と劇中のエピソードから予測し記述したいと思います。

話せばわかります、妄想なので怒らないでください。それでは五十音順に発表します。 

 

相田弥生 Kaede推し 推し曲:スウィート・ソウル・ネギィー

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『週間バスケットボール』記者であり、高校バスケットを追いかけている弥生。主人公桜木花道たちのライバル・陵南高校の相田彦一の姉で、「要チェックやわ」が口癖。インターハイ代表に選ばれなかったもののゲームの中心的プレイヤーであった仙道彰選手の特集を組むよう上司に食い下がる。仕事熱心であり、選手の分析が得意だ。

取材の差し入れを買おうと立ち寄った横浜ビブレにて、名前に見覚えのあったNegiccoのリリースイベントがタワーレコードであることを発見。

「へぇ…まだ30分前だっていうのにすごい入りね!」

感心した弥生はそのままミニライブを鑑賞し、噂には聞いていたゆるいMCを堪能した。そこで、会話の中心にはいないものの、舞台下手に立つだけで完全にMCを支配しているKaedeの存在に気付き戦慄する。自分から大きく動かなくても実現させるゲームメイク、メンバーからの信頼があつい精神的支柱。いざとなれば自分から攻めに行く。あれは…あれは見たことがある。仙道くんのプレイスタイルによく似ている。MCの内容を手元のメモに一心不乱に書き連ね、イベントレポブログにまとめるモチベーションを得るが、記者としての自意識で推しを隠している。

 

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MCを支配しているかえぽ(Kaede)が見られる動画。

 

赤木晴子 Megu推し 推し曲:矛盾、はじめました。

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通学途中再生したSpotifyの「キラキラポップ:ジャパン」プレイリストから流れてきた『矛盾、はじめました。』の歌詞に感動していたら目の前を片思い中の流川楓が自転車で走り抜けたので、曲のまじない的効力を信じるところから始まったおたくへの道。

普段はとてもきちんとした方なのに一体どうして…?と思うのだが、可愛くて爽やかなMegu推しが、推しを前に何も言えず自ら剥がれている特典会をよく目撃する。彼女も例に漏れず。

流川親衛隊ばりに声出しをするファンを横目に見つつも自分はそこまで踏み切れないが、キュートな振り付けの『ノスタルジア』からクールな横顔を見せる『江南宵唄』など、緩急のある推しのかっこいいプレイを見るたびに情報量過多で気がおかしくなり突然踊り出したりする。 

 

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運動音痴な晴子はこの動画でよりいっそうぽんちゃ(Megu)への憧れを深めた。

 

彩子 Nao☆推し 推し曲:圧倒的なスタイル

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ベンチ選手に積極的に声出しをするよう呼びかけ、試合では人一倍声出しをする、バスケット愛に溢れる湘北高校マネージャーの彩子。ハリセンを片手にヤンキーの桜木花道に基礎トレーニングを仕込むなど、肝が座っている姉御肌。キャプテンである赤木剛憲が試合中に怪我をしたときには、すごい剣幕で睨みつけてくる彼に負けずに必死で試合復帰を止めるよう説得するが、結局テーピングで怪我をした足を固めてその熱意を見守ることになる。情に厚いのだ。

中学時代から男子バスケット部所属のため身体能力の高い男性のパフォーマンスを見てきており、女性アイドルを斜に構えて見ているところがあった。が、ある日大ファンのthe band apartの関連動画で自動再生された動画で、Nao☆ちゃんの安定感のあるピッチの上に成り立つエモーショナルな歌に一目惚れした。

Nao☆ちゃんコールでは「なーおちゃん!」「はい!!」、アンコールは「アンコール」「ネギ!」、どちらも休まず全部言う派。

 

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ファンに声援を求めてくれる曲こそ燃える。

 

島村葉子 Nao☆推し 推し曲:光のシュプール

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「バスケット部の小田くんが好きなの」でおなじみ・桜木花道が中学時代最後にフラれた人こと葉子さんは、小田くんと同じくらいNegiccoNao☆ちゃんが好き。

ミディアムで短め前髪のこのヘアスタイルは『ねぇバーディア』通常盤ジャケットのNao☆ちゃんの写真とミュージックビデオを美容師さんに見せて仕上がったもの。

 

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藤井さん Megu推し 推し曲:星のかけら 

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赤木晴子の友人で、付き添いでバスケ部を見学している藤井さん。

陵南高校との練習試合の翌日、試合に負けたことを悔やむ花道に、緊張しながらも「あの、負けたけどでも私、感動しました…とっても…」 と話しかけに行くなど、自分の気持ちをまっすぐ伝えたいという熱と真摯な思いのある彼女。ライブ後に何より先にファンにお礼を伝えてくれるピュアで誠実なぽんちゃの言葉に感動して、自分もこういう語りができたらと夢見る。

ぽんちゃに似てるね、と数回言ってもらったことがあるのを心に秘め、勇気付けられている。

 

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この動画を見ながらダンス練習をしている藤井さん。フリコピユニットを組むのが夢。 

 

松井さん 推し:Kaede 推し曲:アイドルばかり聴かないで

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晴子と藤井さんの友人で、3人の間のツッコミ役。花道にいつまでも名前を覚えられず「友達その2」と呼ばれるが、「誰がその2よ、松井」と切り返す。バスケ部に執拗に肩入れもしないまでも日々見学に通い、客観的な視点で見守る。

愛聴しているTBSラジオ「アフター6ジャンクション」のLIVE&DIRECTコーナーに出演したKaedeソロに「やるやん」となり、うっかりおたくに。

 

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プリン作りが理系っぽいかえぽにグッときて、理系に進むことを選択肢に入れた。

 

 

以上です。みなさんの推しはどなたですか?わたしは彩子さんのおたくスタイルに憧れますね。妄想ですけど。 

 

スラムダンク湘北高校メインキャラクターのNegiccoの推しを考えた記事も書きました。

 

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