年中無休で恋心

たのしいおたくライフを送っています。

Negiccoは誰に歌っているのか? 歌詞の二人称から考える

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Negiccoは誰に向けて歌っているのか、曲の歌詞に出てくる二人称に着目して考えてみたいと思います。

 

何でこんなことを考え始めたのか、きっかけはこの一節でした。

「君の代わりはどこにもいない」

 

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いきなり個人的な話になるのですが、この曲がリリースされた年の夏、大好きだったおばあちゃんが亡くなりました。

小さい頃からなぜだか無邪気になれなかったわたしは、大人になってからもうまく自分の愛情を表現できていたのかどうか自信がありませんでした。おばあちゃんは幸せだったかなといつまでもメソメソしていたところ、この曲はまるで突然のプレゼントのようにやってきて、そういう気持ちを励ましてくれた。

全体をとおして歌詞を読み込めば曲のメッセージ性と自分の状況は異なるはずなのに、Negiccoの透明な歌声に乗った「君の代わりはどこにもいない」というワンフレーズは驚くほど素直に心に響き、自分の偏屈な性格もどこかに追いやって、そのままの意味として受け止めることができたんです。おばあちゃんはいつもわたしの愛し方も含めて受け止めてくれてたんじゃないかと思うと、前向きになれました。

 

そうして大切な曲になっていたこの曲のリリースから1年以上経ったある日、そういえば何でこんなにこの曲に感情移入できるんだっけ?と疑問が降ってきたんです。

大好きな曲と素敵な歌詞であることは大前提として、もっと解像度を上げて考えてみたい。自分ごとのように感じられるのは一体どこがポイントになってたんだろう。どうして自分のことだと思うんだろう。

音楽的なところはまったく想像がつかなかったこともあり、歌詞を眺め、一番好きなこのフレーズのある箇所が気になり始めました。

 

 「君の代わりはどこにもいない」の「君」、二人称です。

 

実生活の中で「君」と呼ばれることはそう多くないですが、歌詞となると自然に受け止められるこの二人称、改めてよく眺めてみると性別も関係性も超えて自分を指差してもらってる感じがしました。名前を呼ばれていないのに、存在を尊重されている感覚がある。同性間でも異性間でも、年齢の上下や立場の違いがあったとしても使われる人称のように思う。立場を越えて対等でいたい思いを直感的に捉えられるような雰囲気があると感じました。

あなた、おまえ、あんた。呼び方ひとつで相手を指し示す印象がとても変わる中、「君」が指し示す広範囲さは抜きん出ているんじゃないだろうか。

 

しかもこの曲の「君」には、同時に複数人に向けてるのでなく、わたし一人を指していると思える何かがありました。大勢の中に紛れている中で、「おおい、君」と呼ばれているような。

文脈にもよるのでしょうが、ここで書かれ、Negiccoの声で歌われる「君」には、顔があると思えたんです。曖昧な誰かや不特定の何か、空に向けて歌うんじゃなく、顔がわかる確かな人格に向けて歌っていると感じられる。これが「君」だったから、自分のこととして受け止められたのかなと思い始めました。

 

歌詞カードを読み返しながら他の曲の二人称を確認し始めると、Negiccoの曲が含む人称のバリエーションの豊かさに気がつきました。人称が出てこない曲がほとんどないし、その種類も豊富である印象を受けたのです。それは具体的でさまざまな人生のいろんなシーン、状況、立場を歌っているからと言えるのかもしれない。

  

例えばとっても平和的な雰囲気のある「みんな」。

 

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「そう リンクしよう みんなの心が繋がってゆく」

新潟の番組のテーマソングやキャンペーンソング、子ども向けの曲によく見られる人称でNegiccoらしいなあと思いましたが、ライブでファンと一緒に盛り上がるような曲で使われていることも多かったです。

 

他、特徴的なものも並びます。

「大キライなはずの人」。

 

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ウェディングソングとしても話題になったこの曲では、具体的な一人をそれぞれが思えるような自由さを残して、しっかり感情移入もできる人称が選ばれていました。お洒落な言葉だなあ。

 

 

「カエポどうよ?」

 

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こういうのも面白いなと思うんですが、ぽんちゃがカエポに呼びかけてるところを見て高まるっていう気持ち、これもアイドルへの気持ちの持ち方のひとつだなあと思います。突然の「カエポ」によって、ライブ中にファンタジーから現実に連れてこられる語のインパクト。それが面白くて、何か高揚してくる。Negiccoってこういう新しい場所に気持ちを持っていってくれるところもあるな。

よくよく考えたら、ここの歌詞カエポに向けてにしか歌ってないってすごくないですか?「伊代はまだ16だから」以来の衝撃。

 

 

こうして二人称に着目してみると、曲の向かう先のゆたかな広がりが見えてきました。どんな人物が含まれているのか見えてくる気がする。

これまでいったいNegiccoがどんな人たちに歌っているかを立ち止まって考えてきたことがなかったけど、人称をデータにしていけば客観的に何か見えるものがあるかもしれないなと思い、なんだかメラメラと本気になってきたので、CDが現時点(2021年1月)入手できる、T-Palette Records所属以降の配信を含む既発シングル・アルバム曲90曲の歌詞をwordに写し、二人称を抜き出してみました。

  

 

あなた/アナタ/あの子/カエポ/神様/キミ/きみ/君/兄弟/恋人たち/ダーリン/バーディア/ふたり/二人/ベイベー/ぼくら/僕ら/未来の私/みんな/皆/私/私たち/わたしたち/大キライなはずの人/2人/Baby/DJ /Girls/My boy/OL/PCDJ/we/you(五十音順・計33)

 

 

ピックアップしながら、とても悩みました。これは想像上の誰かのことを言っていて呼びかけているわけではないのではないか?Babyとはリズムを刻む代わりのもので、意味を持たせるのは粋じゃないのでは?歌詞をどう解釈するかの問題が浮上したのです。加えて三人称的な響きの言葉が二人称として使われているケースもあるなあという気づきもあり、やればやるほどパニックに。

気を取り直して、思い入れを持たず、人物と指すものして客観的に認識できるものを抜き出すシンプルな作業にシフトしました。そこで挙がったものがこちらです。

「君」も「きみ」「キミ」になることでだいぶ雰囲気が代わりますね。「あなた」は漢字やカタカナ表記はなく、ひらがなしか見当たりませんでした。DJやOLっていうとても個別具体的なものも出てきますが、クラブシーンでかかるポップスが多いことが頷けます。

並べてみただけでも豊かに見えてきたNegiccoソングの世界ですが、一体それそれぞれを何回呼んでいるのか、誰に向けた曲が多いのかが気になってきたので、Excelで表を作って数を出してみることにしました。Negiccoが一番呼びかけているのがどこなのか。

すると曲中で何度も同じ人に呼びかける曲があることに気がつきます。

 

『ねぇバーディア』の「あなた」、18回。

 

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『愛、かましたいの』の「Baby」、12回。

 

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多くはライブのキラーチューンでした。日常生活の5分間でこれだけたくさんBabyなんて呼びかけられたら急速に距離が縮まる気がします。名前呼びあう回数が多くなればなるほど思い入れも強くなったりするもんな。自分と曲とのつながりが強くなる効果もあるのかもしれない。

  

いっぽう、『光のシュプール』で一度しか言わない「あなた」の素晴らしさにも気がつきました。一度しか言われない「あなた」なんてときめくに決まっていませんか?この曲の雰囲気にもよく合ってる。

「あなたのいる この隣 何度目の冬かしら」

 

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改めて読み返すとひとつひとつの曲の中での世界がとても豊かなので、一様に数値化することに何の意味が…とも思いつつ、「誰に一番歌っているのか」を特定するというオタク特有の単純な興味で、さきほどの人称の登場回数を数えてみました。

先の90曲の歌詞のWordファイルの検索をかけていく。ふだん見ているのとは違いパソコンの画面上に表示させて読む行為、なかなかフレッシュに歌詞を見つめることができて楽しい作業でした。

  

 

3位 55回 「僕ら」

 

歌う本人を含む「僕ら」という言葉が出てきました。これも実生活ではあまり使いませんが、仲間として受け入れられながら呼びかけてくれているように思える。Negiccoには人生を応援してくれるような曲が多い印象があったけど、「僕ら」という言葉は象徴的かもしれないです。

 

「それでも僕らは 歌うだろう あの歌を 大人になっても 夢を追い続けて」

 

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2位 81回 「あなた」

 

近しい間柄を感じさせる「あなた」が出てくる曲も多くありました。口にするだけで相手への尊重、尊敬、大切な気持ちが込められそうな語感です。胸の中にある心の声でだけ呼べるようなもの、そばにいたとしても憧れている相手を思うときの表現のように読み取れます。ああ、Negiccoが歌う「あなた」、いいですね…。

 

「たくさん遊んでぐっすり眠るの 大好きなあなたと」

 

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1位 189回 「君」

 

最初に惹かれた「君」の二人称が一番多いというのも、なんだか腑に落ちる結果でした。

 

「重なるベル 君をさらう 三次元 カーブを切って 三光年 先まで飛んで」

 

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「あきらめないよ 君と話してた あの未来の 僕らのストーリー」

 

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「どうして迷ってんの? 答えは君の 心の中に、もう あるはずさ」

 

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不思議と「君」を含む曲たちは、どんな関係性かはそれぞれの受け止め方に自由に放たれていながら、何らかの距離の近い人からの声みたいな存在感がある。友達でも家族でも先輩でも恋人でも、アイドルでもいいんだけど、自分に向けて呼びかけてくれている実感を持てる距離を感じました。

 

以下、こんな結果になりました。

 

 

1位 189
2位 あなた 81
3位 僕ら 55
4位 you 43
5位 Baby 37
6位 キミ 30
7位 みんな 25
8位 二人 22
9位 My boy 9
10位 we 6
11位 恋人たち 5
12位 Girls 4
12位 DJ  4
12位 ベイベー 4
12位 4
16位 ダーリン 3
16位 アナタ 3
16位 2人 3
19位 ぼくら 2
19位 わたしたち 2
19位 未来の私 2
19位 大キライなはずの人 2
19位 私たち 2
19位 あの子 2
19位 OL 2
19位 ふたり 2
19位 PCDJ 2
28位 カエポ 1
28位 バーディア 1
28位 神様 1
28位 きみ 1
28位 1
28位 兄弟 1

  

ファンを相手に見立てた恋愛ソングや、キャラクター設定をしっかり定めて「キミ」や「ボク」が歌われることの多いイメージのあるアイドルソングですが、Negiccoの場合は多様な年齢層・性別・立場の方々を想定された内容が多く歌われていることが、ここからも読み解けるんじゃないかなと思いました。

こういう曲を歌っているNegiccoがファンの人生に寄り添いたいと言ってくれること、心からの説得力がある。とても嬉しい。

 

 

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どんな呼びかけ方が優れてるっていう判定するようなものではもちろんないのですが、

この結果だけ見ると、Negiccoソングの多くは「君に歌われている」といえるかもしれません。

こんなふうに多様な対象が溢れている歌詞を含んだNegiccoの曲たち、改めて優しい存在だなあと思いました。

代わりのいない3人がいつまでも、君やあなたや僕らや色んな人たちを歌ってくれるといいなと願います。