年中無休で恋心

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『東京の生活史』のインタビュー聞き手として参加しました

2021年9月21日発売 岸政彦 編 『東京の生活史』(筑摩書房)は、東京出身の人、東京在住の人、東京にやってきた人150人の人生の語りが並ぶ書籍です。わたしは150人のインタビュー聞き手の1人として参加しました。むっちゃうれしい。

 

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デカい。2段組み1216ページ150万字、6.5センチの厚み。鈍器本とも呼ばれています。

各人の語りの一部の抜粋によるタイトルが目次に並びます。これが圧巻で、目次だけで、え、ちょっと泣いちゃう、となる。ページの下部で試し読みもできます。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

あとAmazonのページの圧がウルトラCなので見てほしい。こんなに黒いAmazonのページは見たことがない。

 

www.amazon.co.jp


 

監修・岸政彦先生の「生活史(個人の生い立ちの語りから社会を考える、社会学における質的調査法のひとつ)」というご専門の分野を冠にしたこのプロジェクトの聞き手が公募であると知り、専門の社会学者でなくとも「人は人の人生に耳を傾けられる」ということに、岸先生がこんなに信頼を置いているのだということだけで目頭が熱くなりました。何日も応募文と向き合いながらえいやとメールを送りました(わたしは講習会に参加していたりするほど岸政彦ファンですが、ご本人に悟られぬ文章にすることに本当に苦労した)(いや別にバレていいんだけど照れるじゃないですか)。

応募者殺到のため選考を経て当初は100人の予定だった聞き手が150人に増やされたという経緯を説明会で伺いましたが、それもすごい話。

岸先生と編集者の柴山浩紀さんのおふたりで150人を相手に本を作ってくれたことを改めて考えると、こちらがお金を払わなくていいのかなという気持ちになってきます。150人の様々な年齢・職種の方相手にメールのやりとり、わたしだったら発狂します。インタビューにあたっての研修会、個人的な相談ができる相談会含め10回くらいはリモートで考えや悩みを共有できる機会がありました。対話しながら作ってくださったし、語り手の選定から編集から全てを預けて聞き手を信頼してくださったことも本当に素敵な体験でした。

 

東京に生きた人の人生の話を集めたこの本が「東京とは何か」「人生成功の秘訣とは」みたいな言葉に終結し得ないことを150人の語りで実現させたというのが壮大すぎて、ちょっと言葉になりません。人の人生は選択の連続でもあるけれど、それに自覚的でいられることも、「選択しないままここまで生きてしまった」という諦めを含むまま揺られることもある。こんな当たり前のことも、この物理的な質量で見せてもらえることの圧倒的な説得力があると思いました。

わたしは3時間くらい(追加で聞いたのも含めると5時間ほど)のインタビューをし、書き起こしは3万5千字を越えていて、それを1万字にするということに2か月くらい悩みました。こんなに悩みながら削らなければならなかった人生があって、さらにこの質量があると思うと、やっぱり人はすごいと思います。

 

自分が書いたものが含まれる本を発売日までに読みきれなそうだというのもウケます。笑ってる場合でもないんだけど、一人一人の話が本当に「人生」の一部と分かる凄まじさで、もったいなくて先に進めなかったりします。一行の中のミッシリとした言葉の選ばれ方に温度や匂いまで含んでいる感じがして、身が引き締まる思いにもなります。

そして東京が好きだなあと思います。ランドマークのような東京以外の場所にも、東京が含まれてるような感じがします。どこにいても風景の変わらないような駅前、そこに佇む人にふと惹かれるような感覚は東京だなあと思うのです。色んな階層、文化層が背景にあることを無言で了承しあいながら暮らす人との距離感。映画『くれなずめ』や『あのこは貴族』を観たときに感じたことと近いかもしれない。

door-knock.hatenadiary.jp

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先日語り手の方に本を届けることができました。

今回の語り手のことを何かの形で残したいとずっと思っていました。身近にいるけれど憧れていたので、改めて人生の話を教えてほしいなんて無邪気さがなかなか持てなかった。取材とかこつけて話を聞く勇気になったことも自分にとって大きな出来事です。

本を届けた日から頻繁に連絡をいただきます。その方のほうがグングン読んで「この人最高だね!」を見つけてLINEしてくださって、その話から派生し思い出すことを語ってくれて、すごいです。こういうことが起こっていくんだなと、書籍の起こすコミュニケーションの面白さを感じます。

 

わたしは趣味でつながっている方の感性がとても好きなので、そういう人たちのいる場所で届くといいなと思ってこれを書いているんですが、匿名性の担保を考えながらつくったので、この文章と本を読んで何か分かってしまっても、できれば心のうちに留めてもらえたらうれしいです。

読み進めていくうち、その人について全然分からない情報がそのままになってたりもして、それがすごく素敵だと思いました。人に分からないことは絶対あるし、分からないままにしてあげたいこともある。

実存を信じがちで、どこか「何かのためになること」に思考が走ることが多かった自分の一部が剥がれおちていくような気持ちになりました。人の人生に無理に良い言葉をつけたりしなくても、人生はいいに決まってるもんなあ。素敵な本です。