藤原のシーズンが到来した ~映画『くれなずめ』で俳優・藤原季節さんに唐突にハマった日~
みなさんには好きな季節がありますか?桜がきれいな春ですか。海の香りの夏ですか。日本には美しい四季があって、それぞれに魅力があって、個人的な思い出もありますよね。好きな季節、決めかねますよね。うん、それでいいと思うの。わたし今、自信を持って言えることがあるんです。
「どの季節も、好きでいよう」
ごめんなさい帰らないで、順を追って話す。
先日『くれなずめ』という素晴らしい映画を観て、ひとつブログを書きました。
自分の人生において説明のつかない出会いと思い出の断片、それらへの愛情の持ち方を鮮明に思い出して励まされる、すごい作品でした。
『まともじゃないのは君も一緒』『街の上で』など最近観た成田凌出演作品がどれも素晴らしかったという理由で選んだので前情報をほとんど入れてなかったのですが、想像以上に自分にとっての大切な映画になりました。
パンフレットを購入して帰宅するとさらに映画の世界を感じていたくなり、SNSを開きました。すると完成披露舞台挨拶・公開予定日だった日に放送されたトークイベント・5月の公開舞台挨拶があったと情報を発見。出演者も登壇されています。見たかったなあ、と思っていたら全てノーカットトーク動画がアップされてる。現代最高。
せっかくなので順に見ていこうと、4月15日の完成披露舞台挨拶の動画から再生しました。役名と名前を言う自己紹介のくだりから、ホッカホカの感動直後なので胸熱です。ああ!あの6人が存在している!!
ダサい鞄を背負う主人公の吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)、アツい性格で役者の明石(若葉竜也)、いつのまにか結婚していた後輩のソース(浜野謙太)、同じく後輩で会社勤めの大成(藤原季節)、工場で働くネジ(目次立樹)。
普通にニコニコ見てたんですけど、ちょっと引っかかることがありました。
ちょっと待って。あれ、藤原季節ってこういう人なの?
順番回ってきたのに役名が言えなくて「忘れた?」とつっこまれながら、なんだか全力笑顔の無邪気な感じで元気よく自分の名前を叫んでいます。劇中での彼は一人だけすっごく忙しそうにして、現実的で地に足ついてる人ですよオーラを前面に出してイライラしていました。
ここ最近彼の出演する映画をちらほら観ていて、すごい俳優さんだなとは思ってたんですが(『his』とか『佐々木、イン、マイマイン』とか)どこでもわりかしシリアスな顔を見ていたので、意外だなーと思いました。
まあ、役とご本人を同一視するのもねえ、と反省しながら動画を視聴し続けていると、事件が起きました。
司会「藤原さん、今回本当に急遽、舞台のお稽古の後に駆けつけてくださったということで本当にありがとうございます」
藤原「はい」
司会「お衣装とっても素敵なんですが」
藤原「あ、はい、これはそうですよ。何を隠そう高良健吾さんに頂いた服ですよ」
司会「あっそうなんですか」
藤原「靴は成田凌にもらって」
待ってください。情報が多いのでここでいったん動画はストップします。
情報を整理しましょう。「高良健吾にもらった服と成田凌にもらった靴で舞台挨拶に登壇している藤原季節」
高良健吾にもらった服と
成田凌にもらった靴。
やべえだろ、何それそんなことあるの?
高校の友達6人の物語っていう設定の映画の共演者同士で服や靴をプレゼントしてる状況もヤバいし、それが嬉しくて舞台挨拶に素直に身につけて登壇してる感じもヤバいし、舞台の稽古から駆けつけてるのにそれ持ってくるモチベーションあるのもヤバいし、司会者がそれを知ってるくらいみんながその情報で浮かれてるのもヤバい。良すぎる。そんなに良い世界がこの世にあるのか?
とりあえず心を落ち着けて続きを再生しました。
成田「俺結構きれいな状態であげたんですけどね。サッカーしてきたのかもしれない」
藤原「いやサッカーしないでしょ」
高良「俺もこんな破けてる状態じゃなかった」
藤原「いやそれは最初からでしょ。デザイン、デザイン」
若葉「あんま似合ってないよ」
藤原「あんま似合ってないって言った?」
成田「舞台の稽古それでしてきたの?どんな舞台なの?」
これは…これは大変なことになりました。
誤解のないように言っておくと、彼らはとても仲は良さそうでしたが内輪ノリで終わらせる印象はなく、むしろ作品への愛情が滲んでいるような空気感があり、俳優だけでなく作品のこともちゃんと立体的に見えるようなお話しをしてくれていました。
ただやっぱりこのくだりはヤベえよ。
ちょっと後輩役だった藤原季節が服と靴もらってウキウキしてる感じも良いし、そういう嬉しさを恥ずかしがらずに大事な日に持ってくるところも、この作品に参加して良かったと思ってるんだろうなと想像してしまうようなフックになっててすごい。急に名前出されて藤原季節をいじりにかかる俳優陣もすごい。
この後の部分もぜひ見ていただきたいんだけど、この撮影を通して出演者みんなのことが大好きになって、みんなの魅力をすぐ言えるくらい発見した!と目をキラキラさせて言った藤原季節が具体的に挙げていくのがほとんど顔の話なところとか、めちゃくちゃ面白いです。
その後も公開予定日だった29日の生配信トークイベントで
「タトゥー入ってます、これ、赤ちゃんのときから」となぜかBCG跡を突然見せて場を騒然とさせるも
「それでも『くれなずめ』を届けることを諦めない」と真面目なコメントを残し、
5月の公開記念舞台挨拶では
「今その話、僕しようと思ってたんです」と司会者の話を遮ってまで主題歌の感想を興奮気味に語り
いったいどんな人なんだ…と大混乱しながら、すっかり藤原季節を目で追うようになっていることに気が付きました。検索すると彼のブログを発見。最新記事が『くれなずめ』公開日に上がっていました。
舞台の中止、映画の公開延期が決まったこの5月の日々のことが書かれています。いろんなことが止まって、何もできなくなる日々。
天気が良かったのでダラダラ歩く。渋谷ユーロスペースの横の階段に座ってボーッとしてたら松居大悟が通りかかる。「なんにもしたくないです」って言ったら「なんにもしなくていいでしょ」って言われて謎の自信が出る。
こんなことがあるのか、と思う運命的なことが起きています。
大切な映画の公開が延期になって散歩して映画館横でくれなずんでいたら、その映画の監督が偶然通りがかる。そしてふと言った一言に、響く言葉が返ってくる。
感受性のゆたかな人にはこういうことが起きちゃうんだろうな。なんだか納得してしまうような一文です。
アンダーラインを引いて覚えておきたくなるような出来事はたまに人生に起こるけど、人生は積み重ねで、昨日と今日はそんなに変わりません。
ブログを読み進めると、そういう日々が見えてきました。
リハビリのためと映画を観よう思っても、なぜか観られない。本を読もうとブックオフに行ったけど、読めない。自炊に飽きる。
淡々と、トライして諦めて、でもそのグラデーションの間にいることを残そうとしている跡。
こんなに正直な表現者がいるんだ、と眼から鱗が落ちました。語彙も文章も素晴らしい上、デジタルの文字なのに筆圧の強さを感じる。
この人はこの日々を、なかったことにしないようにしようとしている。同時に、なかったことにされてきたことを大切にしようとしている。こんなに優しい人がいるもんなのか、と気がついたら号泣していました。
成長もしたくない、変わりたくもない、乗り越えたくもない、切り替えたくもない、別に前に進みたくもない、連絡も返したくない。何もせずただ引きずって、「生きるだけだろ」と心の中で呟いていた。
ここを読んだのはすでに夜中。誰も起きていないような時間に読む「成長もしたくない」「変わりたくない」「乗り越えたくもない」「切り替えたくもない」「生きるだけだろ」は、どれもこれも一文字ずつ、心の中でなぞって書けるくらいに同じ気持ちになりました。
文末を緊急事態宣言によってこの日が公開初日になった作品たちへの言葉で結んでいることも、とんでもなく優しい。
彼らほど大きな環境の変化がないとはいえ、わたしにもやっぱり日々感性を鈍らせるようなことがあり、それらを無視することへの罪悪感があり、でもそれは言葉にもなっていませんでした。ああ、すごいなこの人は。この人の表現にもっと触れてみたい。次のブログが公開されたら、絶対に通知がくるようにしよう。
LINEブログだったので、公式LINEに登録すると通知が来るようです。すぐにアクセスできた公式LINE登録のボタンを押すと、彼から1通のメッセージが届きました。
2021年5月16日。わたしに藤原のシーズンが到来した。